愛のない部屋

「今日が何の日だかご存知で?」

「さぁ……」



9月――なんかあったけ?



「慶吾の誕生日ですわ」


「えっ……」


「おめでたい日ですよ」



白い歯を見せてニッコリと笑う。



「それでは素敵な夜を」


嫌味に聞こえる台詞をさらりと言い、マリコさんは再び歩き出した。

誕生日という恋人同士の一大イベントの日に、どうして峰岸は私と夕食を食べようと思ったのだろう。

教えて欲しかった。
ケーキくらい用意してあげたのに。

マリコさんの後ろ姿を見ながら、惨めな気持ちになる。

初めから好きな人の誕生日を把握しておかなかった自分が悪いだけ。

これじゃぁマリコさんに惨敗だ。


雨音が大きくなった。

重たい足を引きずりながら、駅を目指す。


先に到着した峰岸が待っていてくれているなんて、淡い期待はもうしない。

私はただ独りぼっちの夜を過ごすために、愛のない部屋に戻るだけ。

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