愛のない部屋

駅に行き、峰岸がいないことを再認識することが嫌で途中でタクシーに乗った。

守れない約束をしないで欲しいと悪態をつきながら、昼間の会話を思い出す。


ああ、きちんと約束をしたわけではなかったか。



あの部屋に帰っても前のようにはいかないと分かっていたのに、なぜ戻ってしまったのだろう。

浅はかな考えだったと、もう既に後悔をしている。


私は峰岸が好き。


好きだから一緒に居たいという事実は変えようがないけれど、どうせ峰岸がマリコさんの元へ行ってしまうのなら、いっそ……潔く別れてしまおうか。


愛し合えないのに

一緒にいることは矛盾している。



好きな人の隣りにいて感じた違和感に気付かない程、馬鹿じゃない。


峰岸の誕生日をお祝いしようとしていたマリコさんへの罪悪感だって、徐々に募っていく。


まだ大家さんに何も報告をしていなくて良かった。



「すみません、行き先を変更して下さい」


退居したばかりのマンションの住所を、運転手さんに告げた。

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