愛のない部屋
選べる道はただひとつ
『頑張れ』
それだけ早口で言い、篠崎は一方的に電話を切った。
切られる直前、マリコさんの声が聞こえた気がした。
マリコさんと篠崎は一緒なんだ……。
開いたままのディスプレイの画面が一瞬暗くなり、すぐに明るくなった。
今度は峰岸からの着信。
「運転手さん、すみませんが此処で」
素早く財布を取り出し、お釣りを受け取らずに車から降りた。
留守番サービスに繋がらない設定にしているため、ずっと呼び出し中となっている。
すぐに動き出したタクシーを見送り、
「もしもし」
通話ボタンを押した。
『やっと繋がった』
ほっとしたような声が届く。
『駅にいるんだけど、まだ来れないの?』
「もうすぐ家なの」
『はぁ?やっぱり篠崎から聞かなかったんだな』
峰岸は私とマリコさんが遭遇したことを知らない様子だ。
「ううん、聞いた。でも今日はアンタの誕生日だから。私と一緒にいる必要はないと思って」
マリコさんが待ってるよ。