愛のない部屋
「でも峰岸さんは、まだ沙奈ちゃんのことを――」
「峰岸は優しい男だから、私のことも放っておけないだけ。愛情というより同情だよ」
同情なんかに包まれて、惨めな思いをしたくない。強がってでも別れを選んだことを、不思議と後悔していなかった。
「それで良いんですか?」
「うん。ありがとう」
何か言いたそうな舞さんだったが複雑な顔をして頷いた。
「私、帰るね。素敵な式に招待して頂けて、嬉しかったです」
2人の門出に立ち会い、幸せな気持ちを分けて貰った。
そして舞さんに見送られながら式場を後にした。
「沙奈!!」
式場が完全に見えなくなった時、名前を叫ばれた。
反射的に振り向けば、そこには――息を切らせて走ってくる峰岸がいた。
「話が、あ、るんだっ」
乱れた息で途切れ途切れに発した言葉は、なんとなく予期していたものだった。
だから逃げる。
「急いでるので」
冷たく突き放す。