愛のない部屋
プルタブを開ける。
「私、峰岸のことよく見てないんでしょうか?」
こんな質問を篠崎にするなんておかしいとは思うけれど、彼なら答えてくれるような気がした。
「見てないというか、見せないのかもな。惚れてる女にカッコ悪いところとか、弱さを見せるのは嫌じゃん?」
一気に珈琲を飲み干した篠崎は、それを上手く投げてゴミ箱へ入れた。
「見栄とか建前を全て捨て去って、ありのままの自分をさらけ出せる男なんてそういないよ」
「そういうものですか」
「うん」
恋愛マスターの話は分かりやすい。
なにより"そんなことも分からないの?"と、馬鹿にせず、質問に答えてくれることが有難い。
「沙奈ちゃんも結局は峰岸の前で良い子ぶりたいだけじゃないのかな?素直で強い子でいなくても良いんだよ」
どうしてこの人は私の心を見透かすのだろう。
痛いところを的確に突いてくるが、不思議と嫌な気がしない。
「沙奈ちゃん、思ったままに行動すれば良いんだよ」
優しく私の頭を撫でる上司の言葉に頷いた。