愛のない部屋
買ってもらったお茶を両手でぎゅっと握り締める。
「峰岸とマリコさんの邪魔をせずに退散するという選択は間違っていたのでしょうか」
「最善の選択なんてさ、死ぬまで人間には分からない……いや死んでも分からないだろう。こっちに行けば落とし穴、あっちに行けば高い壁。人生なんて結局、障害ばかりの砂利道さ」
「砂利道……」
「だから君の選択が間違えていたとか、合っていたとか。そんなものは分からない。ただひとつ言えることがあるよ」
じっと話を聞く。
「"選択"なんて所詮、近道をするか遠回りをするかどうかの違い。大事なのは選択の後に何をするかだよ。穴に落ちても自力でもがく力はあるか、壁に衝突したらそれを突き破る勇気はあるか……自分の行動次第で過去にした選択なんて、どうとでも変えられるんだ」
頼りになる上司の言葉ひとつひとつが、心に届く。
「頑張って」
時計を見てから、オフィスに戻ろうとする篠崎の背中はいつもより大きく見えた。
「篠崎さん、」
そして私はもうじき昼休みが終わってしまうことを分かっていても、どうしても聞きたいことがあったので彼を呼び止めた。