愛のない部屋
「なぁに?」
「……」
振り返らずに返事をした篠崎は、私が言おうとしている内容をまるで知っているかのようで。
なかなか続きが言えない私のことを助けるかのように、背を向けたまま言った。
「俺は峰岸には勝てなかった。それが全てだよ」
「……篠崎さんは何でもお見通しですね」
「エスパー使えるから」
馬鹿げた冗談を言って、和やかな雰囲気に変えてくれた。私が話しやすいように、どこまでも気を遣ってくれる人だ。
「私のこと、本気でしたか?」
本人を目の前にしてこんなことを聞くことはどうかしていると思うが、あやふやなまま終わらせたくはなかった。
篠崎には沢山迷惑をかけて、謝らなければならない。
彼を利用してまで峰岸から離れようとした最低な私を罵しるくらいの権利だってある。
「フツーそういうことは遠回しに聞くのにさ。随分とはっきり聞くんだね」
「すみません…」
笑いを含んだ声。怒ってはいないようでほっとする。
「そういうはっきりしてるとこ、俺は好きだけどね――確かに俺は君のことを好きだった。彼女になってくれたら、嬉しかったかもしれない」
表情が見えないので、仕方なく篠崎の背中を見つめた。