愛のない部屋
「でも心の中でどこか遠慮があった。それは峰岸が俺の親友だったこともあるけれど、一番の理由はさ。俺には忘れられない奴がいるってこと」
「それは女性ですか?」
「うん。綾瀬っていうんだけど、大学の後輩でさ。俺がずっとずっと好きだった女。想いを伝えることもできなくて引きずり続けた片思いに、終止符をうつことを俺はずっと望んでた」
「片思い…」
篠崎が片思いなんて、それほどミスマッチな組み合わせはないだろう。
「驚くなよ、俺だって片思いくらいするんだ。それにおまえにフラれたようなものなんだけど」
「…すみません」
篠崎からの想いは確かに嬉しかったし、それを受け入れたいとも思ったけれど。私の心にいたのは峰岸だった。
それは離れている間も同じで篠崎に心を許す隙間を埋めつくすような峰岸への想いに、ずっとずっと苦しんでいた。
「謝るなよ。本気を出せば、おまえは絶対に俺にオチてた。アイツの前でキスしたフリなんて大サービスしてやったけどさ。いつもの俺なら、腰が抜けるくらい情熱的なものをプレゼントしていたと思うよ。君には随分と手加減をしたなぁ」
クスリを笑う篠崎。
そんな熱いキスから逃れることのできた自分を褒めやりたい気分だ。