愛のない部屋
「これだけは言える。俺が君に対する想いは、本物だったよ」
ワントーン低い声で篠崎は言った。
なんて返事をすれば良いのか分からなくて、じっと彼の後ろ姿を凝視する。
すみません、そんな言葉で謝ってしまえば篠崎を傷つけてしまうように思えた。
「でも君には峰岸がいるから俺はきっぱり諦められたよ。俺は必要ないと納得したから、もう良いんだ。後は大学時代からの片思いに終止符をうつだけだ」
「彼女…綾瀬さんとは今も会っているんですか?」
「たまに会ってるよ。向こうも仕事とかあるだろうし付き合ってもいない男から頻繁に誘われたら迷惑だろう?」
「篠崎さんからのお誘いなら、嫌な気持ちはしないんじゃないですか?」
篠崎との会話はテンポもよくて、分かりやすくて。退屈しない保証がある。
「そうだと良いんだけど。綾瀬と頻繁に会えない寂しさをただ沙奈ちゃんで埋めようとしていたとか、そういうことではないから。はっきり言って、同じくらい好きだったけれど。――俺が今、誰よりも奪いたいのは綾瀬なんだ」
そう宣言した篠崎はクルリと方向転換して、私と向き合った。
「だから沙奈ちゃんへの想いは、綺麗さっぱり忘れる。そうじゃないと俺は、二股男になっちまうから」
「はい……」