愛のない部屋
明かりが見えるリビングを前にして、足が止まる。もしかしたら峰岸の気持ちはもう変わってしまったのかもしれない。
結婚式というイベントに流されて、一時の感情で口走っただけなのかも。だとしたら今、私が此処にいること自体、迷惑なのかな。
「どうした?」
リビングの扉を開けたまま、峰岸はこちらを不思議そうに伺う。
「……」
迎えに来ようとしたのも、篠崎に言いくるめられて仕方なくなのかもしれない。
「沙奈?」
それじゃぁ今日、何度も私の名前を呼ぶことはなんて説明する?
「今、なに考えてるの?」
「……」
「悪いけど、帰りたいと言っても帰すつもりはないから」
「……どうして」
「どうしてだと思う?」
そう尋ねたはずの峰岸は答えなど求めていないかのように、私の手を取った。
「なに飲む?ワインあるよ?」
「珍しいね」
いつもビールの峰岸が洒落たワインだなんて、珍しすぎる。