愛のない部屋

手を引かれ、リビングのソファーに誘導された。


「ワインで良い?」


同じ質問をされて今度はきちんと答える。


「飲む前にきちんと話したいの」


「なら珈琲を煎れるわ」



気分を害した様子もなく、テキパキとキッチンに向かう峰岸の背中にどうしようもなく抱きつきたくなった。


だから物音を立てずに近寄る。


キッチンに移動すれば、気配を感じとったように峰岸が振り返った。


「ん?」


マグカップを片手に、こちらを見る。


「なに?沙奈が煎れてくれるの?」


ねぇ、なんで名前で呼ぶの?


「峰岸、」


「うん?……って、おい!!」


驚いて固まる峰岸の様子など観察している余裕もないまま私は唇を噛み締めた。


「なんで泣くんだよ」


そんなの私が知りたいのに、溢れ出す涙を止めるどころか嗚咽が漏れた。


今日はどこまでも自分のペースで歩けず、情けない。

峰岸が好きだという感情に全てが左右され、私らしさが失われつつある。


他人なんてどうでも良かったのに。
峰岸の目に私はどう映っているのだろう、そればかりが気になる。

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