愛のない部屋

頰が濡れる。

「泣くなよ」

困った声。
涙は女の武器だってよく言うけれど私の場合、迷惑をかけてしまうだけ。


「泣かれても正直どうすればいいか分からない」


「……」



私だってどうすれば涙を止めることができるのか、その術すら分からない。


「沙奈。涙の原因は俺？」


「……」


「色々あったけれどこれからは絶対に泣かせるつもりはないんだ。嬉し泣き以外は許さない」


「これから――？」


「うん」


「これから、どうなるの？」


「どうしたい？」


「私が聞いてるの」



涙を拭い、真っ直ぐに峰岸を見る。



「まずはちゃんと話をして。その後は……」


「その後は？」


言いにくそうな峰岸に、次の言葉を促す。


「キスくらいはしても良いかな？」


「……」



キス？


「黙るなよ。今も結構、我慢してるんだよね」


「……」



頭をかきながら、峰岸は力なく笑った。


「篠崎に、おまえは強引すぎるから気をつけろ、って言われてさ」


今回ばかりは余計なお世話だよ、篠崎さん。