愛のない部屋

鞄を引っつかみ、勢いよく立ちあがった。


「悪い、ごめん」



しかし謝罪の言葉を並べたタキは机の角に足をぶつけた。


「痛っ」


その慌てように思わず笑ってしまう。


「タキ、ゆっくりしていってよ」


私たちの問題よりも先にタキの本人にとっては重要すぎる悩みを解決しよう。


「なに言ってるんだよ、俺は帰る」


顔を歪ませて痛みに耐えている様子。そんな足で今すぐ帰れるとは思わないけれど。


「滝沢さんにいて貰っても、俺は構いません」


「私も。だって私たちはタキがいなければ、巡り合えなかったのだし」


感謝してもしきれないことをしてもらったのだ。私の人生を変える、大切な人と出逢わせてくれた。


「じゃぁ遠慮せずに此処にもう少しいるわ。で、おまえらどうなったの?」


気を取り直してソファに座りなおしたタキの目には涙。ああ、相当痛いんだ。



「どこまでって…今から沙奈の話を聞こうと思ってるところです」


そう答え、峰岸は私を見た。


「俺は沙奈が好きだよ」



タキがいる前でそう宣言した峰岸。

タキの視線も私に注がれた。

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