愛のない部屋



「実は俺たち兄弟だ」


峰岸の言葉に、私の思考回路はストップした。

峰岸の顔を見ればそれがただの冗談でないことくらい分かるけれど、どうしても信じられない。


「慶吾に修吾。似てるっしょ?」



ミネギシケイゴ

タキザワシュウゴ


いくら名前が似てても、名字が違うんだから気付けるはずがない。


「黙っててごめん」


峰岸が申し訳なさそうに続ける。


「父親が同じなんだ。ただ滝沢さんは本妻の息子で、俺は――親父が不倫してつくった子」


不倫?


「滝沢さんに会ったのは社会人になってからなんだ。俺も滝沢さんが兄貴なのが信じられない」


「……」


私はよく分からない気持ちになった。


峰岸は自分の生い立ちについて話したくなかったのだと、理解することはできるけれど。



不倫、不倫――って、親子揃ってなにをやってるんだろう。



「親父に会ったのは小学生の時までで、それ以降は連絡のひとつもない。母親はその話をしたがらないんだ」



峰岸はとても悲しそうで、苦しそうだった。


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