愛のない部屋

勝手にワインを飲み始めたタキは口元を乱暴に拭う。


「嘘つけ」


「嘘では……」


「はぁ?1ミリも後悔してないと言えるのかよ。自分の不甲斐なさに悩んでたじゃねーか」


「……」



タキが峰岸を責めているように見えて、しまいには峰岸は俯いてしまった。



「沙奈、これだけは間違えるな。不倫なんかをコイツが望むわけないだろう?騙されていたんだよ、あの卑怯な女に」


「騙されていた?」


聞き返す私にタキは顔をしかめた。


「不倫関係であったから峰岸には父親がずっといなかった。分かったような口を利くつもりもないが、色々苦労しただろう。そんな道をまた繰り返すようなことをコイツがすると思うか?」



「それ程、マリコさんのことを……」


父親と同じ道を歩んでしまったのは、マリコさんを愛する故に――



「マリコはな、結婚していることを隠し続けたんだ。もちろん峰岸は未婚者だと思い込んでいるわけだから、なんの問題もなく交際していた。……まぁ隠し事なんていずれバレるものでさ、、、って峰岸が話してやれよ」


「ええ」


タキに変わって峰岸が話し出す。

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