愛のない部屋
「沙奈はこれからどうしたい?」
「私?」
「マリコのことを忘れてくれとは言えないけれど、もうこれからは関係ないんだし。2人のことを考えたいんだ」
部外者の私がマリコさんとのことを心配してるなんて、大きなお世話だったのかもしれない。
だって峰岸は既に前を、未来を、見ているから。
その未来に、たぶん私もいる。
「帰ってきたい。此処に帰ってきたいよ」
家族がいない私に、ただいまとかお帰りとか、そんな言葉を言わせてくれたこの部屋に戻ってきたい。
「当り前だろうが。明日、荷物取りに行くぞ」
「明日も会社だよ?」
「日曜になるまで離れて暮らすのかよ?そんなのもう無理、限界、耐えらんない」
まるで駄々をこねる子供のように並べた言葉にクスリと笑えば、
「沙奈も同じ気持ちじゃないの?」
そんな不満の混じった声で尋ねられた。
それに答えようとしたところで、私の手を握った。
「おまえがどんな返事をしようとも、帰すつもりはないから」
その力強い言葉に胸が締め付けられて、私も峰岸の手を力を込めて握り返した。