愛のない部屋
それはもう過去のこと
――翌朝。
目覚めのキスをして、どこかくすぐったい朝を迎えた。
「別々に出勤した方が良いよね?」
「そんなこと気にすんな。別に社内恋愛禁止じゃないんだし」
慣れた手つきでネクタイを結ぶ姿を見るのは久しぶりだ。
「でもやっぱり、上司の目から見たら……」
「そんなこと言ったら、篠崎はどうなるんだよ?アイツ、とっくに首になっててもおかしくないな」
同じようなことを篠崎自身も言ってたっけ。
「それにおまえの上司は、その篠崎なんだから余計な心配はいらないだろ」
「うん……」
次は新聞に目を通す。
朝から峰岸はテキパキと動き、私とは正反対。
私はもたもたと珈琲を煎れ、峰岸に差し出す。
「ありがと。それよりおまえ、篠崎とは何とも無かったんだよな?」
読みかけの新聞を閉じ、探るような目付きで私を視界に捕らえた。
その瞳は朝からキラキラしていて、寝起きもいいようだ。
「私が彼に、迷惑を掛けてしまっただけなの」
「気にすんな」
「でも、」
篠崎の気持ちを弄んだようで、なんだか腑に落ちない。
「俺のことは気にすんな、それが篠崎からの伝言」
「篠崎さん……」
どこまでも私のことを気に掛けてくれるんだね。