愛のない部屋
社員専用の駐車場で車を止めた途端、
狭い車内で峰岸が迫ってきた。
私は慌てて避ける。
「ちょっと!もう此処は会社だよ?」
途端に不機嫌になる峰岸はプイッと顔を背けた。
その表情がなんとも子供らしくて。
新たな一面に、いとおしさが募る。
「なに笑ってんだよ?」
至近距離で、甘い声がかけられる。
「とにかくこんな所で……」
――キス、なんて単語はそう簡単に言えない。
「こんな所で?」
わざと私に言わせようとしている悪魔は、不適に笑った。
「俺が近付いただけで、沙奈はキスされると思ってるんだ」
「……意地悪」
照れくさくて、逃げるようにして車のドアを開けた。
「沙奈、怒った?」
「怒ってないよ」
「良かった。キスはお預けだな」
峰岸は車を施錠し、私の隣りに立った。
「今夜はなるべく定時で上がるようにする。また連絡するな」
瞬時に仕事モードの口調。
その切り替えの早さに、驚きながらも頷いた。