愛のない部屋
「……別にあたしがフラられた訳じゃないから」
「はぁ……」
2人きりのエレベーターで七瀬は舌打ちをする。
「あの男が、女の趣味が悪いだけ。彼女の顔が見てみたいわ」
……峰岸の彼女なら。
今、アナタの目の前にいます。
なんて、言えない。
「そーいや、峰岸さん、不倫しているという噂あったよね」
「えっ?」
「あれ?知らない?社内の噂になってたの。不倫相手が会社に押し掛けて来たとかでさ」
「……」
他人と距離をとっていた私は、峰岸のことも、噂話も興味がなかった。
もし以前の私がその話を聞いたら、峰岸を軽蔑したのだろうか。
「それでどうなったんですか?」
「さぁ。ただの噂だったし、よく分からないわ」
良かった。
噂話として処理され、何事もなく過ぎ去ったなら問題ないよね。
「篠崎さんならともかく、峰岸さんだもん。誰かがフラれた腹いせに、デマでも流したんでしょうね」
そう言い残して、開いたドアから七瀬さんは出て行った。