愛のない部屋

もしかしたら本当にマリコさんは、峰岸に会いに会社に来たのかもしれない。


「朝から眉間にシワ?幸せ者がする表情には思えないねぇ」


珍しく私より早く出勤していた篠崎は既に席に着いていた。


「今日は早いんですね」


「なに?嫌味?」


篠崎さんは椅子を引いて、長い足を組んだ。



「上手くいったんだ?」


「おかげさまで……」


「うんうん、良かった」


いきなり手を叩いた篠崎にビックリする。

どうやらお祝いの拍手をしてくれたらしい。



「ただ問題がある」


「問題?」



なにか仕事のミスをしてしまったのだろうか。嫌な汗を掻く。


「マリコが君と話したいんだって」


「私とですか?」



峰岸と別れてくれとか、アンタとは不釣り合いだとか、そんなことを言われるのだろうか。


「おまえ、俺が好きなんだって?」


「はぁ?、、あ……」


咄嗟についた嘘。マリコさんと初めて会った日、篠崎が好きだという嘘を言ってしまったんだっけ。

どうしてそんな嘘をついてしまったのだろう。あの頃の私は普通じゃなかったんだ。

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