愛のない部屋
夜道を背の高い篠崎と並んで歩く。
彼の隣りは、私に安心感を与えてくれる。
「マリコさんに分かって貰えるでしょうか」
彼女より秀でているものが何もない私を、認めてくれるのだろうか。
「君たちが付き合うということは、少なからずマリコを傷つけることになるだろうね」
「そうですよね」
「彼女が君を認めるかどうかは、マリコの器次第かな」
冷たい風が吹く。
思わず身震いすれば、首元に温かいものが触れた。
「マフラー?」
黒い毛並みの良いものだと分かり、篠崎を見る。
「貸してあげる」
優しく微笑む。
「俺、寒がりだから人より早くマフラーを所持してるんだよね。今は沙奈ちゃんの方が必要としてるみたいだから貸して――」
そこで篠崎が立ち止まった。
「……?」
私もつられて歩みを止めれば、
道路に停められた1台の車が目に入った。
「見るな!」
珍しく篠崎が怒鳴り声を上げたが、
それを気にする余裕もなく、私は車を見つめていた。