愛のない部屋
抵抗せずに篠崎の拳を受け入れる峰岸。
必死に止めてくれるように泣きすがるマリコさん。
そして立ち尽くす私。
篠崎よりも私が激怒するべき場面で、傍観者になり続けた。たぶん思考回路が停止してしまったのだと思う。
だって昨日は、そして今さっきまではあんなにも幸せで峰岸を近くに感じていたのに。
やっときちんとした恋ができると意識した矢先、
目にしたものは、峰岸の裏切り。
いっそ、このまま壊れてしまいたい。
なにも感じたくない。
首に巻かれたマフラーを、強く強く握った。
私が正気を保っていられるのは、篠崎の香りがするこのマフラーのおかげだろう。
「輝、お願いだからもう止めて」
「なにが止めてだ?全ておまえのせいだろうが」
峰岸を殴っていた手を止め、篠崎の鋭い視線がマリコさんの方を向く。
「何回、道を踏み外せば済むんだ?」
感情のこもっていない、冷たい声を初めて聞いた。
「マリコ、おまえはなにがしたいんだ?」
吐き捨てるように言う篠崎は殺気立っていた。
ーー私のために。