愛のない部屋
「俺らは今日、話し合うために来てるんだろうが。マリコに何を言われたのか知らねぇが、それに乗っかるようなてめぇに、心底がっかりだよ」
いつもの眩しすぎる笑顔を消し去って、彼らしくもない大声を上げてくれた。
「輝に愛されているのね」
この場面に不釣り合いなマリコさんの言葉に、篠崎の眉がピクリと反応した。
「輝と沙奈さんはお似合いなんじゃないかしら。ねぇ、慶吾」
「……」
切れた口を拭う峰岸は相変わらずの無表情で、私から視線を逸らした。
「マリコさん……、」
私が篠崎を好きだという、自らつくってしまった誤解を解かなければ。
「沙奈さんは幸せものだね。誰にでも対等だけれど自分の懐には決して入らせない輝が、アナタのために本気で怒ってるなんて。なんだか信じられない光景ね」
「違うんです、マリコさん」
「おまえは勘違いしてる」
篠崎も口を挟む。
それでもマリコさんは、言葉を続けた。
「沙奈さんは、篠崎輝のことが好きなんでしょう?こんなに大切にされて羨ましい」
マリコさんは私の嘘に気付いているんだ。
静かな夜にはっきりと聞こえた言葉をすぐには否定できなかったのは、心に迷いがあるせいなのか……。