愛のない部屋
ふて腐れたように篠崎は地面を蹴った。
「マリコとおまえのラブシーンを見て、傷付いた沙奈ちゃん。彼女を庇うように怒る俺。どちらか沙奈ちゃんのことを大切に思っているのかなんて、一目瞭然の場面」
篠崎が淡々とした口調で語る。
「そんな時でも優しい俺様に揺るがずに、峰岸への想いは変わらないか。そんな試練だったわけか」
つまらなそうに口を尖らせる篠崎は、峰岸の肩に手を置いた。
「不覚にも、まんまと騙されました」
「騙して悪かった」
降参のポーズをとる篠崎は、呆れた表情でマリコさんに視線を移した。
「で、マリコはこれで満足なの?」
彼女は黒く大きな瞳で、私を見た。
まだ混乱した頭で考える。
ということはマリコさんは私と峰岸がお付き合いを始めるという事実を、知っているということで。
もう隠す必要がないんだ。
「マリコ、もうおまえとは会えない」
静かな口調で宣言した峰岸は、どこか吹っ切れたような、すっきりとした表情だ。