愛のない部屋
身体中に気だるさを抱え、すぐに眠りにおちてしまったようだが、
峰岸の大きな手が頭を撫でてくれているのを感じていた。
「……」
夜中にふと目を開けると
峰岸の姿はなかった。
慌てて起き上がり、衣類を身につける。
どこに行ったのだろう。
静かにドアを開けると、真っ暗なリビングから話し声がした。
「ああ……、」
ため息交じりの峰岸の声。
「正直、気持ちの整理がつきません。滝沢さんならどうしますか?」
声を掛けていい雰囲気ではなかった。重苦しいなにかが、リビングを支配していた。
電話の相手はタキのようだが、明らかに楽しい話題ではなさそう。
大人しくベッドで待っていようと立ち上がれば、
「沙奈にはまだ話してないんだ」
自分の名前が飛び出して足を止めた。
もしかしたら私が聞いてはいけない内容なの?
だとしたら立ち去るべきなのに、明かりのついていない部屋に、峰岸をひとり残すことはできなくて、そっと近付いた。
以前の私なら聞かないフリをして逃げていただろうに、人間変われるものだな。