愛のない部屋
同じように私も、峰岸というピースがはまってから全てが満たされて。逃げずに幸せを受け止める勇気が出たんだよ。
「でも暗いニュースも世の中には沢山あってさ。沙奈にも伝えないとな……」
「でも言いたくないことなら……」
「いや言わせてくれ」
真っ暗な部屋でも至近距離であれば相手の顔が見えるものだが、峰岸は俯いてしまってその表情は伺えない。
「勝手に部屋に忍び込んで沙奈にキスをした日、俺は朝から母親に会いに行っていたんだ」
「え……」
朝早くから篠崎さんが訪ねて来て、峰岸がマリコさんと会っていると知らされた日だ。
そして篠崎から手紙を託され、初めてマリコさんのことを知った翌日のこと。
「いや、会いに行ったというのは語弊があるかもしれない。看取りに行ったんだ」
「亡くなったの?」
「うん。元から心臓が弱くてさ」
「……」
あの夜の峰岸の様子はおかしかったのに、私はその深い悲しみに気付けなかった。
私との約束をすっぽかしてまで、マリコさんに会いに行ったという誤解から生まれた嫉妬のせいでなにも察することができずにいたんだ。