愛のない部屋

勝手に誤解して感情的になって、
なんて嫌な女だったのか……。


「あの母親のせいで俺の人生は狂ったようなものだから、正直に言えば悲しいとは思えなかったよ」


「うん……」


「でも虚しさというか喪失感なのかな?もやもやした気持ちでさ。同意もなく沙奈にキスしたり、もう心がめちゃくちゃだった」


「……そんな辛い日だったなんて知らなくて。なにも優しい言葉を掛けてあげられなかった……」



後悔。

キスをした峰岸を罵倒した覚えすらある。


「ううん。なにも話してないのに、分かって貰いたいなんて横暴だったよ。でも俺はあの時から、沙奈に特別な感情を抱いてたんだと思う」


「それは私もだよ」


「ありがとう」



峰岸がマリコさんに会いに行ったと知ってショックだった。もう恋をしていた証拠だ。



私も峰岸を確かに愛していたんだ。



「そしてさっき滝沢さんから電話があって。俺と滝沢さんの父も亡くなったらしい」


「……」



訃報ばかり続く世の中で、光はあるのだろうか。

哀しみを取り去るものが愛だとしたら、私にはなにができるだろう。

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