愛のない部屋
「父親には何もして貰わなかったし、今回も何か胸につっかえてる感じかな」
「そう……」
早くに両親を失った幼い頃の私と、大人になって両親を失った峰岸。状況は違っていても、両親との楽しい思い出がひとつもない私には峰岸の気持ちがよく分かる。
「人の死を悼むことのできない自分自身に腹を立てる気持ちも、私は理解できるよ」
「沙奈……」
「でも今、無理矢理受け止める必要はないと思う。いつかはお墓参りに行って、"ありがとう"とか、"ごめんなさい"って言えるようなるよ」
峰岸は肯定も否定もせずに、
私を抱き締めた。
背中に回された手はいつも以上に強い力がこめられている。
それに答えるように、すっかり冷えてしまった身体を抱き締め合えばただ一言、峰岸は小さく呟いた。
「家族が欲しい……」
肉親との別れを経て、峰岸もまた家族を失ってしまった。
できれば孤独なんて感じずに、ひとりぼっちだなんて思わないで欲しい。
――私が、いるから。