愛のない部屋
「沙奈だって、キスしたいでしょ?」
囁くような小さな声。
側に人がいないことを承知で彼は発言していると分かってはいるが、周りを確認してしまう。
「挙動不審?」
こちらの心配をよそに、余裕をかます男の靴を踏んでやった。思いっきり!
「痛っ」
「誰かに聞かれたら、どうすんのよ!」
顔をしかめる峰岸を見て力を入れすぎたと少し反省。でも私は悪くないよね。
「とにかく、こんなところで……」
キスなんて言わないでよ、
そう付け足すはずの言葉は、
峰岸の唇によって、途切れた。
不謹慎に舌まで入る深い深いキスに、
脳が拒絶しようと踏ん張るのだが、結局は甘い誘惑に負ける。
峰岸にしがみつくような形で、必死にキスを受け入れる私を、
会社という場所で、不釣り合いな行為を行なっている私たちを、
恋に溺れた男女と呼ぶのだろうか。