愛のない部屋
今日は峰岸の残業を手伝う約束をしたけれど、それはまだ篠崎には伝わっていないのだろう。
「はははっ」
突然、篠崎は笑い出した。
笑われた意味が分からず、不愉快になるところだがその笑顔に魅力を感じてしまう。
見た目の良い人間は大抵のことは許される、とはこういうことをいうのだ。
世の中はどこまでも不平等だよね。
「その不満そうな顔、普通は上司にできないよな」
笑いを堪えたような声で言われた。
「すみません」
ここは職場。
接待や営業が嫌だとか、峰岸と残業したいだとか、私自身の要望が通って良い場所ではないのに。
なにを勘違いしているのだろう。
「すみません」
再度謝ると、篠崎はもう笑わなかった。
「こっちこそ、ごめん」
軽く頭下げると、篠崎は続けた。
「ホントは峰岸と俺が残業することになってたんだ。でも急な接待が入っていけなくなった。だから代わりの奴に頼むことになったんだけどさ」
「はい」
「そしたら峰岸が沙奈ちゃんを希望してきたんだ。大変だけど残業、宜しくね」