愛のない部屋
新プロジェクトの冊子作りを私は任され、その作業に集中しようと努める。
パソコンで下書きされた文章を入力していく。
「ここ、峰岸さんの案で良いと思うわ」
「いや僕は樫井さんの方がより細かくて、良いと思ってるんだけど」
なんでかな。
仕事に関する会話をしているだけなのに、胸が痛い。
おかしい、おかしいよ。
だってこれは仕事で、此処は職場。
プライベートな感情や事情を間違えても持ち込んではいけないのに。朝から同じことが頭を巡る。
「宮瀬さんは、どちらの方が適当だと思いますか?」
「えっと、私は……」
ピンチヒッターの私にまで意見を求めてくれる。
普通は部外者の意見に聞く耳を持たない人が多い中で珍しいし、嫌な気持ちはしない。
「やっぱ峰岸さんのが良いわよね?」
樫井さんは峰岸の"提案"について"良い"と言っているのに
私にはその言葉が、峰岸への好意を示しているんじゃないか、って。とても失礼なことを思ってしまった。
「それじゃぁ樫井さんのここを削る変わりに、俺の案を入れてみたらどうかな?」
「あ、ここに!それ良いですね」
「それじゃぁ……」
2人だけ、私抜きで進む会話。