愛のない部屋
居心地の悪さを感じる。
「あ、部長に用がありますので、少し席を外します。そろそろ外出先から戻る頃なので…」
樫井さんが立ち上がる。
「分かりました」
書類から顔を上げた峰岸は頷いた。
私に軽く会釈して退席した樫井さんは、やっぱり素敵な人だと綺麗な足を見て思った。
2人きりになったと言えど、残業中の私たちは特に言葉を交わさなかった。
隣りにいる峰岸が気にならないと言えば嘘になるけれど、話し掛けることはしない。
今、隣りにいる男は部署は違えど上司。
気軽に話し掛けて良い相手じゃない。
一番近くにいるはずのアナタが一番、遠くに感じる瞬間。
「ぁ、……」
無意識にパソコンから顔を上げれば、峰岸と目が合った。
先に逸らしたのは、私じゃない。
「……」
何も言わないし、笑いもしない。
なにか話しなさいよ。
仕事のことでも良いのに。
今朝のキスをまだ照れくさく感じている自分もいるし、同時に訳の分からない嫉妬心のせいか
私から話題を提供することはできなかった。