愛のない部屋
結局沈黙を続けている間に、樫井さんが戻ってきた。
あー、最悪だ。
樫井さんが戻って来てくれたことに、ほっとしている自分に嫌悪。
普通はガッカリすべきでしょう?
渦巻く黒い感情。
峰岸と樫井さんが私に何かをしたわけじゃないのに。どこまでワガママで自分勝手なのだろう。
仕事場で嫉妬という感情に見舞われている時点で、私はどうかしてる。
そう、どうかしてるのだ。
篠崎さんは私がこうなることを予想して、前もって心の準備をさせようと配慮してくれた。
彼の機転に感謝はするが、いっそ接待への同行の方が良かったかも。
「峰岸さん、ここは……」
樫井さんの手元を覗き込む峰岸。
2人の距離は近い。
ああ、長い睫毛に高い鼻。2人には共通点が結構ある。
それは探せば探すほど出てきそうで、悲しくなった。
私と峰岸の共通点を今まで考えたことがなかったけれど…なにかあるのかなぁ。
「ああ、この文章の……」
「そういうことね」
私にはよく分からない峰岸の話に、樫井さんは大きく頷く。
私には理解できない内容を樫井さんと共有している峰岸の顔をじっと見る。
「っ、……」
樫井さんから目を離した峰岸と再び、視線が絡む。
だから今度は、私が先に視線を外した。