愛のない部屋
足手まといになるくらいなら、逃げた方が良い。
そう感じて私は会議室から飛び出してきた。それを見透かされたようで、内心ギクリとした。
『でもさ、逃げたらまた同じことの繰り返しかもしんないよ』
「……」
『君が自信を持たないでどうするの?好きというその言葉だけで安心できないのなら、なぜ恋愛をしているんだろうね。結局君は峰岸のことを信じてないということかな?』
「篠崎さん…」
峰岸のことを信じてないわけじゃないけれど。
親しげな光景を目にして、
冷静で居られるほどに恋愛経験が豊富なわけでも、強い心を持っているわけでもないのに。
それでも楽な道へ逃げちゃだめだよね。
「私…、仕事に戻ります――きゃっ!」
いきなり背後から強い力が加えられた。
『どうした?』
心配そうな声が電話越しから響く。
私の手から携帯がするりと抜け、篠崎の問いに答えたのは
――峰岸だった。
「ああ、何でもない。仕事中だから切るぞ」
一方的に電話を切った峰岸は私に携帯を突き返す。
無表情な峰岸からは怒りが感じられた。
私がこんなところで油を売っていたから、怒っているのだろうか。