愛のない部屋

足手まといになるくらいなら、逃げた方が良い。
そう感じて私は会議室から飛び出してきた。それを見透かされたようで、内心ギクリとした。



『でもさ、逃げたらまた同じことの繰り返しかもしんないよ』


「……」


『君が自信を持たないでどうするの?好きというその言葉だけで安心できないのなら、なぜ恋愛をしているんだろうね。結局君は峰岸のことを信じてないということかな?』


「篠崎さん…」



峰岸のことを信じてないわけじゃないけれど。

親しげな光景を目にして、
冷静で居られるほどに恋愛経験が豊富なわけでも、強い心を持っているわけでもないのに。


それでも楽な道へ逃げちゃだめだよね。



「私…、仕事に戻ります――きゃっ!」



いきなり背後から強い力が加えられた。



『どうした?』



心配そうな声が電話越しから響く。


私の手から携帯がするりと抜け、篠崎の問いに答えたのは



――峰岸だった。




「ああ、何でもない。仕事中だから切るぞ」




一方的に電話を切った峰岸は私に携帯を突き返す。

無表情な峰岸からは怒りが感じられた。



私がこんなところで油を売っていたから、怒っているのだろうか。


< 378 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop