愛のない部屋
「仕事に戻れ」
峰岸は淡々とした口調でそれだけを告げると、私のことなど無視をして会議室へと戻っていく。
「峰岸、さん!」
「……」
声を掛けると同時に、峰岸の方へ駆け寄る。
「仕事中に不謹慎な質問だとは思うのですが。その、かし…かしい…」
「樫井さんとは仕事だけの関係だ。飯を食いに行ったこともない。有能な女性だとは思うが、それ以上の感情は持ってない」
周囲に配慮した小さな声と、淡々とした口調。
「おまえが気にするようなこと、あるわけないだろう?悪いけど、俺のペースを崩さないでくれ」
「…え?私がいると邪魔、ってこと?」
「そうだ」
低い声が、胸に突き刺さった。
「またそんな顔して。そんなに俺を困らせたいの?」
「違います!」
私は今、泣きそう?ううん、涙を堪えることなんて簡単だよ。
心を閉ざしてしまえば良いだけなのに、峰岸の言葉に反応して悲しくなるなんて……私の心はやっぱりアンタに変えられてしまった。
「おまえ、俺の気持ちを分かっていないだろう?」
「……」
耳を塞ぎたくなる衝動に駆られて俯き加減になると細い指が伸びてきて、私の顎を持ち上げた。
「キスしたい」
「は?」
慌てて峰岸の顔を見れば、不敵な笑みを浮かべていた。
「おまえを見ればキスしてくなるし、触れたくもなる。例えそれが仕事中でも。そんな風におまえは俺のペースを崩すんだ。公私混同をしないと決めておきながら、最悪だよ」