愛のない部屋
峰岸…?
「だから頼むから、残業が終わるまで大人しくしておいて?樫井さんに俺たちのことがバレないように、おまえもちゃんと仕事して?」
「樫井さんにバレたら嫌なんですか?」
「樫井さんに限ってのことじゃないよ。俺たちのことは結婚式の招待状を出すまで、社内の奴らには秘密にしておきたいだけ」
「招待状…?」
「口空いてるし、間抜けな顔になってる」
私を見てくすくす笑う峰岸は再び歩き出した。
「残業終わったら、飯行くぞ」
その言葉に頷き、私も峰岸の後を追う。
逃げるな、篠崎さんはそう背中を押してくれたのだと思う。
逃げないで峰岸に聞いてみれば、事はすんなりと解決したはずなのに。
私はまた、自分ひとりの殻に籠ってしまうところだった。
社内恋愛は確かに難しいかもしれないけれど、2人の信じあう心があればきっと乗り越えられる。
そして私たちは近い将来、
樫井さんを含めた社内の人々に、
結婚式の招待状を配るのだろう。
「沙奈、」
会議室のドアを開ける前に、峰岸は素早く私を引き寄せて
触れるだけのキスをおとした。
そのキスは、幸せの証拠。
番外編/社内恋愛 (完)