愛のない部屋
しばらく見つめ合っていた私たちの視線は途切れた。
どちらかが逸らしたのではなく、勢いよく電車が通過したからだ。向こう側が視界から途切れたことを合図に私は全力で走った。
元来た道を引き返し、またスーパーを目指す。
とにかく遠くへ、行きたかった。
なぜ彼がこんな場所にいるのか、
どうして再会してしまったのか、
頭をフル回転させた先に辿り着いた記憶は、悲しい思い出。
やっと立ち直れた過去に、また向き合わなければいけないとしたら
私はきっと傷付く。
もし彼がまだ私のことを覚えてくれていたとしたら、彼は私になにを言うのだろう。
かつて何度も、
私の名前を連呼した唇で
"愛してる"、何度も伝えてくれた唇で、
今はなにを紡いでくれるのだろう。
「みね、ぎ……し、」
息切れをしても、走ることを止めない。
立ち止まってしまったら過去が迫ってくるようで、怖かったから。
私の将来に、捨てた初恋は必要ないのに。
どうして、彼を見つけてしまったのだろう。