愛のない部屋
『沙奈はなにを思った?恐怖を感じた?それ共、感傷に浸ったか?』
タキの声に落ち着きを取り戻し、近くのベンチに座る。
そっと深呼吸。
「彼が私を見てどんな行動をとるのか、どんな言葉をかけるかが気になったの……」
『そうか』
「私はアノ人に傷つけられて、タキに出会うまでずっと孤独だった。今更、再会なんてしたくなかったな……」
震える唇を噛み締める。
おかしいな、目頭が熱いよ。
『再会したのなら、それは乗り越えなさいという天命かもな』
「もうとっくに乗り越えたよ」
フラれて傷付いて、それでもまた恋をしようと峰岸を選んだことに一切の迷いはない。
『それは本当に乗り越えたと言えるのか?たかが見かけたくらいで動揺して、震えてる』
「……」
図星だ。
平常心でいられなかった。
そして逃げ出した。
『沙奈、心配することはないよ』
優しく語りかける。
『慶吾はおまえを置いて、いなくなったりしない。兄貴として俺が保証するよ』
「タキ……、」
優しい声が響いた。