愛のない部屋

『沙奈はなにを思った?恐怖を感じた?それ共、感傷に浸ったか?』



タキの声に落ち着きを取り戻し、近くのベンチに座る。

そっと深呼吸。




「彼が私を見てどんな行動をとるのか、どんな言葉をかけるかが気になったの……」


『そうか』


「私はアノ人に傷つけられて、タキに出会うまでずっと孤独だった。今更、再会なんてしたくなかったな……」



震える唇を噛み締める。

おかしいな、目頭が熱いよ。



『再会したのなら、それは乗り越えなさいという天命かもな』


「もうとっくに乗り越えたよ」



フラれて傷付いて、それでもまた恋をしようと峰岸を選んだことに一切の迷いはない。



『それは本当に乗り越えたと言えるのか?たかが見かけたくらいで動揺して、震えてる』


「……」


図星だ。


平常心でいられなかった。


そして逃げ出した。



『沙奈、心配することはないよ』



優しく語りかける。



『慶吾はおまえを置いて、いなくなったりしない。兄貴として俺が保証するよ』


「タキ……、」


優しい声が響いた。

< 384 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop