愛のない部屋

私自身が見て見ぬフリをした気持ちでさえ、タキはとっくにお見通しのようだ。


そう、私は――


アノ人の時と同じように

峰岸をも失う、かも。

そう怯えて

現実から、

彼から、逃げ出したんだ。




「タキ。また同じことを繰り返したとしても、私はそう簡単に峰岸の手は離せないと思う。先生の時とは……違う行動をとるよ」



教師と生徒の禁断の恋

年の差

恋愛経験ゼロ



それらの要素が私の中で大きな足枷になっていた。禁断の恋愛で、年上で大人な恋人。


先生の決断の全てが正しいと、それを疑いもしなかった。

だから一方的に別れを告げられた時も、これでいいんだ。2人が幸せになるための最善の道なのだと言い聞かせた。

去り行く先生の手を掴むことができなかった子供の私。でも今は社会人でそれなりに世の中を知った。


離しちゃいけない手があることも、分かってる。




『沙奈と峰岸は大丈夫だ』



何の根拠もないはずなのに、タキの言葉に安堵する。


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