愛のない部屋
峰岸は寝室のベッドにそっと私を下ろた。
「うなされてたけど、嫌な夢でも見た?」
「うん……」
初めて失恋をしたあの日の夢を見た。随分と久しぶりだ。
少なくとも峰岸と出会ってからは、一度も見ていなかったのに。昼間のことが相当、堪えたのだろう。
「心配なことがあるのなら、なんでも俺に言えよ?」
真剣な眼差しを注がれる。
「峰岸……」
目を逸らすことなく、愛しい人を呼ぶ。
「ロールキャベツ作ったの」
「おっ、食う」
「今、温めて……」
「その前におまえを食いたくなるな」
「……」
照れ隠しに、今度は目を逸らせば
近付いてきた綺麗な顔。
「好きだ」
そう私に伝えてくれた峰岸のことが、好きで好きで仕方がないのに。
馬鹿だと思う。
峰岸のことだけを信じて愛すことが幸せなのに。それを揺るがすように、自分の心を傷つけてまで先生のことを思い返すなんて、ただの馬鹿者だ。