愛のない部屋

峰岸は寝室のベッドにそっと私を下ろた。


「うなされてたけど、嫌な夢でも見た?」


「うん……」


初めて失恋をしたあの日の夢を見た。随分と久しぶりだ。

少なくとも峰岸と出会ってからは、一度も見ていなかったのに。昼間のことが相当、堪えたのだろう。


「心配なことがあるのなら、なんでも俺に言えよ?」


真剣な眼差しを注がれる。


「峰岸……」



目を逸らすことなく、愛しい人を呼ぶ。



「ロールキャベツ作ったの」


「おっ、食う」


「今、温めて……」


「その前におまえを食いたくなるな」


「……」



照れ隠しに、今度は目を逸らせば
近付いてきた綺麗な顔。



「好きだ」



そう私に伝えてくれた峰岸のことが、好きで好きで仕方がないのに。

馬鹿だと思う。




峰岸のことだけを信じて愛すことが幸せなのに。それを揺るがすように、自分の心を傷つけてまで先生のことを思い返すなんて、ただの馬鹿者だ。


< 388 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop