愛のない部屋
「ふあぁぁっ」
大袈裟な欠伸をする緊張感のない上司を睨む。
「部下は上司の背中を見て、頑張るものですけど…」
「いいじゃん、俺と沙奈ちゃんの2人きりなんだから」
みんなが少し遅いランチのため食堂に行ったり、外回りに出掛けて行るせいで、オフィスには篠崎と私しかいない。
「昨日はロールキャベツだったんだって」
「なんでそんなこと知ってるんですか?」
「今朝、峰岸から聞いたよ~」
「……」
峰岸がいちいちそんな話をするとは思えないんだけど。
「沙奈が疲れてるみたいだから、今夜の残業はおまえがやれ!って俺に命令してきたんだよ」
「えっ?」
「嘘、嘘っ」
手をひらひらさせながら、篠崎は笑う。
「今日は久々に早く帰って、沙奈ちゃんとゆっくり飯を食いたいらしい。だから俺に残業を代わってくれと、頭を下げてきた」
「……」
「体調がどんなに悪い時でも、アイツは自分の仕事をやり遂げて退社するのに珍しいことだよ」
ああ。心配を掛けてしまったんだ。
昨日の私の態度は不自然だったに違いない。