愛のない部屋

こんなことで心配をかけたくないのに。



「なんかあったの?」



どうして篠崎は話しやすい空気を纏っているのだろう。優しさに包まれて打ち明けたくなる。



「大丈夫ですよ」



そんな誘惑に負けず、笑顔を作る。

恋人にも上司にも恵まれていて、心配することなんてない。



「そ、なんかあったら遠慮なくどうぞ」


「ありがとうございます」



今日も峰岸の好きなものを作ってあげよう。でもあのスーパーに行く気分にはなれない。


まさか、とは思うけれどまた遭遇してしまう確率がゼロとは言い切れないから。



もしかしたらあの近くに住んでいるのかもしれない。

海外から戻って来た?


日本を離れる先生を涙で見送ったあの日を、思い出さないと決めたのにーー。


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