愛のない部屋
皆と入れ違いに昼休憩をとる。
お腹はあまり空いていない。
ひとつでも悩みがあるとそればかり考えてしまう器の小さな人間だ。
「沙奈」
「あっ」
廊下で呼び止められる。
峰岸の顔を見て、すっと気持ちが楽になった。
「今日は一緒に帰ろう」
「うん」
「それじゃ」
「……峰岸」
忙しいことは分かっていたけれど、つい呼び止めてしまった。
これから会議なのか大量の書類を抱えている。
「うん?」
「今夜は駅前まで、夕食の買い出しに行こう?」
「ん?わざわざ駅前?」
不思議そうな顔。
遠くのスーパーに行こうと誘うなんて不自然すぎるよね。
しばらくはあの踏切に近付きたくないんだ。
「……たまには違うスーパーの方が新鮮なの」
「そういうもんか。了解」
片手を挙げてから、背を向ける。
大きな背中。
私の全てを受け止めてくれるだろうけど、話せば峰岸の重荷になるだけ。
このまま、なにもなかったことにすれば
なにも変わらないだろうから。
早く忘れてしまおう。