愛のない部屋
動揺を悟られないように箸を動かす。
「あなたの見間違えじゃないですか?私、峰岸さんと話したことも数回しかありませんし」
強気の姿勢のまま言い返す。
「私も最初はただの見間違えかと思ってたの。そしたら他の子も、あなたが峰岸さんの車から降りた姿を見たって言ってたわ」
峰岸は会社から少し離れた場所で、私を降ろしてくれたけれど目撃者がいたのか。
「雨の中、相合い傘をしている2人も見ました」
相合い傘?嫌な表現。
「どうなんですか?付き合ってるのか、はっきりして下さい」
面倒な女。
嫉妬心丸出しにして、恥ずかしくないのかしら。
「本当になんでもないわよ。それに仮に私たちが付き合っていてもあなたには関係ないでしょう」
「…じゃぁ、どうして今朝は一緒に?たまたま会って乗せて貰っただけならば、堂々と会社の車庫まで乗せて貰えば良かったじゃない」
まるでそうしなかった私を責めているような言い草。
「あなたには関係ないでしょう?」
「関係あります。私、入社当時から峰岸さん一筋なんです」
「あ、そう」
私には関係ない。
ただ面倒なことに巻き込まれてしまったという、自覚だけはある。