愛のない部屋
珍しくエレベーターに誰も乗ってこなかった。
「なに言われたか知らねぇが、噂なんてすぐ消えるさ」
「…迷惑」
なんでよりによってアンタとなのよ?
「迷惑なのはこっちも同じ」
そうか、お互い様なのか。
先程の女の子を思い出す。
入社した時からこの男を想い続けていたなんて一途だな。
「告白とかよくされるの?」
「それなりに」
「具体的にどれくらい?」
「社内の子からだと…まぁ両手でも足りないな」
隠すこともなく、かといって自慢するわけでもなく淡々と答える。
なんか、むかつく。
「なに?俺のこと気になるの?」
「別に」
モテる男は、嫌いだ。
自意識過剰で、女を次から次へ交換して。
恋愛はゲームのような感覚で行なう。
「どうして付き合わないの?」
「面倒だから」
恋愛を面倒という一言で片付ける男は、挨拶もなくエレベーターから降りていった。
社内で峰岸と言葉を交わしたのは初めてだったが、できれば同じエレベーターに乗ることが二度とないといい。
また余計な噂が広がるなんて勘弁して欲しいから。