愛のない部屋
優しい男
タキと一度別れ、先にいつもの場所へと向かう。
昨日に続けて今日もこのファミレスに来るとは思っていなかった。
家族連れも勉強している学生もいて、いつもと変わらない光景に安堵する。
注文したミルクティーを口にすると、ふんわりとした甘さが広がる。
「なに?」
頭上からの声。
声の主がタキではなく峰岸だったことに驚き、
思わずマグカップを倒してしまった。
「熱っ」
茶色い液体が飛び散る。
「おいッ」
すぐに峰岸が倒れたカップを直してくれた。
「なに、って?」
平然な顔をして、おしぼりでテーブルを拭く。
最初に峰岸から掛けられた言葉を繰り返す。
「そんなこと良いから、早く手を冷やして来い」
向かい側の席に座り、おしぼりを奪われた。
「痕残るぞ?」
ヒリヒリとする手の甲は、赤みを帯びていた。
「お手洗いに行ってくる」
峰岸の指示に従い、席を立った。
どうして峰岸が此処に来たのか、謎すぎる。