愛のない部屋

タキの優しい顔に見惚れる。
いつも笑っていて、明るい人だ。


「アイツがそう言ったの?」

「直接、言われたわけではないけど。態度を見ていれば分かるよ」


行動、言葉、その全てに私への拒絶が表れている。


「俺は、峰岸なら沙奈(さな)を幸せにできると期待しているんだよ」


甘い声で"沙奈"と呼ばれ、気持ちが落ち着く。
タキといると自然に心穏やかになれるのだ。


「峰岸さんのこと、タキは過剰評価しすぎだよ」


峰岸と同じ屋根の下で暮らすことは息が詰まる。

時々、こうしてタキが訪ねて来なければ、間違いなく私は窒息するだろう。


「アイツは良い男だよ」

「そうなんだ」


タキが迷いなく言い切るのだから峰岸は良い男なのだろう。アイツは私に敢えて嫌われようと振る舞っているのかもしれない。


そんなことを考えていたところで、リビングの扉が開いた。


「あ、滝沢さん」

「お邪魔してるよ」


コンビニの袋を提げた峰岸が戻って来た。

もう少しタキと2人でいたかった、と思うのはただのワガママ。



タキは私だけでなく峰岸にも会いに来ているのだから。




縮まることない距離に立っていても、ひとつだけ分かったことがある。


それは
峰岸も私と同じように

タキのことを尊敬し、
必要としている、ということ。





そもそも私たちを恋人同士と名付けたのは、

他でもないタキだった。


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