愛のない部屋
「あ、一応を確認な。峰岸は好きな奴いんの?」
「…いない」
「沙奈は?」
「私も、いない」
今更の質問。
異性を好きだと感じたことは、人生で一度キリ。
人を愛するという感情が今は欠落してしまったようだ。
「2人共、好きな奴がいないなら問題はないな」
問題は大有りだと、否定しない私たちを見てタキは満足そうに頷いた。
結局私たちはタキには敵わない。
「それじゃ、俺は帰るわ」
「もうですか?」
2本目の缶ビールを飲み干したばかりのタキは、ゆったりとした動作で立ち上がった。
「うん、帰る。明日も朝から会議だし」
タキがどんな仕事をしているのか聞いたことはないが、かなりやり手だということは容易に想像できる。
言葉が巧みで、人の心を掴むのが上手い。
こちらの考えていることまで読んでいるのか、的確な返事をしてくれることも魅力だ。
「あ、送って行きますよ」
峰岸も立ち上がると、タキはそれを制した。
「ここで良いよ。また来るわ」
突然来たと思ったら、すぐに消えていく。
まるで風のような訪問者。