愛のない部屋

「あ、一応を確認な。峰岸は好きな奴いんの?」

「…いない」


「沙奈は?」


「私も、いない」


今更の質問。
異性を好きだと感じたことは、人生で一度キリ。



人を愛するという感情が今は欠落してしまったようだ。



「2人共、好きな奴がいないなら問題はないな」



問題は大有りだと、否定しない私たちを見てタキは満足そうに頷いた。

結局私たちはタキには敵わない。



「それじゃ、俺は帰るわ」

「もうですか?」



2本目の缶ビールを飲み干したばかりのタキは、ゆったりとした動作で立ち上がった。


「うん、帰る。明日も朝から会議だし」


タキがどんな仕事をしているのか聞いたことはないが、かなりやり手だということは容易に想像できる。

言葉が巧みで、人の心を掴むのが上手い。



こちらの考えていることまで読んでいるのか、的確な返事をしてくれることも魅力だ。



「あ、送って行きますよ」


峰岸も立ち上がると、タキはそれを制した。


「ここで良いよ。また来るわ」



突然来たと思ったら、すぐに消えていく。

まるで風のような訪問者。


< 8 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop