愛のない部屋
カゴを持つ峰岸を引っ張り、野菜を手にとる。
「あ、アレも買おう」
途中、ラーメンに入れるニラをカゴに入れて餃子の皮を探した。
「どこにあるかな?」
「皮??それもラーメンに?」
ただ付いてくるだけの峰岸。
「明日の夜は餃子にしようと思って。ビールに合うし」
「おっ、良いね」
「アンタも食べるの?」
「あ?俺の分はないわけ?」
ひでぇ、女。
そう呟く峰岸を相手にせず、目に入ったチャーハンの素を手にした。
餃子とチャーハン、そしてビール。最高に合うじゃない。
「なにニヤニヤしてるわけ?」
整った顔が迫り、頭の中から餃子が消えた。
「ちょ、近いっ」
胸を貸して貰った日以来、互いに触れ合うこともなく(当然だけど)、久々に峰岸を近くに感じた。
「今、おまえは幸せな顔をしてたぞ」
「ただ明日の晩御飯のこと、考えてただけよ」
峰岸と不自然なほどに距離をとる。
「あんな可愛い顔してると、女に見える」
「だから!私はフツーに、か弱き女よ!」
「そうだっけ?」
――可愛い顔。
そのフレーズは聞かなかったことにした。