愛のない部屋
人混みをかき分けてレジに向かう。
「他に買うものない?」
「俺はビールがあれば平気」
「それじゃぁ、支払ってくる。先、車に行ってて」
週末だからか、レジには長蛇の列。
2人で並んでも仕方がないだろう。
「了解」
そう言いながら峰岸はさっと財布をカゴの中に入れた。
「ちょ……」
「それで払って」
「でも……」
「俺の方が給料いいんだから、気を遣うなよ」
事実を言い残して峰岸はスタスタと入口の方に歩いて行き、壁際の邪魔にならない隅で立ち止まった。
「…待っててくれるんだ」
先に戻っててくれても良いのに。余計な気を遣う間柄じゃないのに……。
味噌か醤油で一歩も譲らない、
そんな気楽な関係のはずなのに。
お財布を渡してくれたり、さりげなく先にカゴを持ってくれたり…さっきだって、わざわざ助手席のドアを開けてくれた。
――本当は、
嫌な奴なんかじゃない。
誰よりも気を遣い、周りをよく見て行動に移すことのできる人だ。
口は悪くても、心配りができる奴。
そう彼の良さを見つけても、
好きになんてならない。
そう自分にブレーキをかけた。